3.デジタルとアナログの融合した指数
前回でAP指数の骨格はできあがりました。
今回からは様々な補正について説明します。
『AP指数』とは?シリーズ一覧
馬場の傷みに着目したコース取り補正
コースにはコーナーが存在し、コーナーの内を通るか、外を通るかによって、実際に走った距離に差が出てきます。
当たり前ですね。
しかし、コースを1周した場合に内外でどのくらいの距離差があるのか、どのくらいのタイム差が出るのか、正確に把握している人は少ないのではないでしょうか?
コーナー沿いに併走した2頭の走行距離差を馬一頭分の幅を1mと仮定して計算してみましょう。
コーナー半径をr、円周率をπとすると、
外側の馬の円周:2π(r+1)
内側の馬の円周:2πr
2頭の円周差(距離差)は、
2π(r+1)-2πr=2π≒2×3.14=6.28(m)
となります。
次に内外の馬が1ハロン12秒で走ったと仮定すると、馬の速度は、
200(m)÷12(秒)=16.6(m/秒)
6.28mを走るのに必要な時間は、
6.28÷16.6≒0.38(秒)
つまり、内外一頭分コース取りが変わっただけで、1周回ってきたときに約6m、およそ2馬身、タイムにして0.4秒弱の差があることになります。
つまり、コーナー2つで0.2秒差、AP指数に換算すると2ポイントの補正となります。コーナーでのコース取りでデジタル的に補正値を算出できます。
しかし、このコース取りによるタイム差を指数補正に使うには、もう少し工夫が必要です。
考慮しないといけないのは、馬場の傷みです。2つのレース写真を例に説明します。
[4月22日東京 フローラS]
[6月10日東京 エプソムC]
1つ目が開幕週に行われたフローラS、2つ目が2連続開催の8週目に行われたエプソムCの4角の写真です。
当然ながらフローラS週は馬場が傷んでいないので、少しでも内を回そうと密集しています。反対にエプソムC週では降雨の影響もありますが、走りにくい傷んだ内を避けて馬場の中~外を回しています。
これを補正に加味すると、フローラS週では馬場の傷みが少ないので内外の差がそのまま補正に使えます。よって最内を基準とし、コーナー2つで1頭分外になるごとに+2ポイントの補正を入れます。
一方、エプソムC週では1着サトノアーサーと3着グリュイエールが内から4頭分、2着ハクサンルドルフが内から3頭分を回しています。
よって内から4頭分を基準とし、1頭分外になるごとに+2ポイントの補正。内も荒れて力を発揮できていないと考え最内で+2ポイントを補正します。
一日の馬場の変化を見ながらアナログ的にコース取り補正値を決めていきます。
刻一刻と変わる馬場補正
まず馬場補正の出し方から説明します。
各レースの走破タイム:tn
各レースの基準タイム:stn
馬場補正値={(t1-st1)×距離係数+…+(tn-stn)×距離係数}÷n
速い時計のレースが多く出た場合は馬場補正値はマイナスとなり、逆はプラスとなります。
このままでは使えないので、考慮しないといけない要素が2つあります。
要素①ペース
AP競馬新聞では道中のペースを6段階で示しています。そのうちの最も遅い、Lペースは補正計算から除外します。
あまりに遅いペースの場合、前半が遅すぎて、走破タイム自体が遅くなりすぎるため、馬場の影響だけとは言い切れないためです。
要素②馬場状態の変化
天候やレースによる傷みによって馬場状態は刻一刻と変化していきます。この傾向が顕著に見える場合は、馬場補正値は平均値を使わず、レースごとに補正値を決めていきます。
6月16日阪神芝を例に説明します。
各レースの馬場補正値要素を、横軸にレースを取りプロットします。
●が馬場補正値要素を示しています。この日は一日中良馬場でしたが、レースが進むにつれて徐々に時計が速くなる傾向がみられました。
平均値をとると-1.9となりますが、上記傾向を馬場補正値に反映することにしました。
手順①平均ペースとなったレースの要素で傾向をつかむ
このサンプルでは1R、6R、9Rが平均ペースとなります。時計の速くなる傾向が顕著につかめます。
手順②隣り合うレース間の平均を取りながら補正直線を決める
隣り合うレース間の平均を取りながら、補正直線を修正していきます。各要素の固まりを意識して傾斜を決めますが、レースのペースやリプレイでの時計の出方に着目して補正をかけるようにしています。
手順③各レースの馬場補正値を補正直線より読み取る
あとはレースごとの馬場補正値を補正直線より決定します。
馬場補正値はグラフを作るところまではデジタル的なのですが、最後はペースやリプレイを活用しているところがアナログ的で非常に手間がかかります。
その分、記録に表れない要素を加えた馬場補正値ができあがり、AP指数の精度は高いのです。
記録に表れない不利を補正する
競馬では陸上競技のように各馬が走るコースを決められているわけではありません。
よって、各馬が思い思いにレースを進めるため、他馬が邪魔になったり、思い通りにレースが運ばないことがあります。これを不利と捉え補正の対象にしています。
一般的な競馬新聞でも道中の位置取り表示を見ると不利が分かります。AP競馬新聞だと丸数字で表示されています。
4角か直線で何らかの不利があったことを示しています。
もちろん、この不利もレースリプレイを見直して、どんな不利があったか、どれくらいのタイムをロスしたかを検討して、補正に加えます。
しかし、これら記録に残る不利は大勢の人たちが認識し、馬券的な旨味につながりにくいです。今回は記録に表れない不利の補正について説明していきます。
記録に表れない不利とはどのようなものか?
実際のレースリプレイを見ながら解説していきましょう。サンプルは少し古いですが、2016年3月5日小倉4R 3歳未勝利芝1800m戦の①リップルトウショウになります。
■向正面
余談ですが、レースリプレイを見るときは画面の1/4くらいにある隊列画像でレース全体の流れや動きをとらえるように心がけています。
話を戻しますと、①リップルトウショウは逃げた⑦テイエムサンピラーから2馬身ほど後ろを追走しています。
■3角進入時
3角の進入時も逃げ馬からの位置はそのままキープしています。しかし、全体的な流れが速くなっていて、各馬のスパートがはじまっています。
■4角
バテた逃げ馬⑦テイエムサンピラーがずるずると後退してきますが、①リップルトウショウは内ラチと⑤オールスマイルに挟まれて進路を変えられずに、同じように位置を下げてしまいます。
これだけ位置取りを下げても競馬新聞では不利表示されません。バテて下げたのか、バテた馬に下げさせられたのかの判断がついていないためです。
レースリプレイを見ていると手応えは十分に残っており、バテて下げていないことは明らかです。
■直線
①リップルトウショウは4角で馬群を捌いて、じわじわと伸びて5着に来ました。伸びから判断すると、4角までで位置取りを下げなければ、もっと際どい勝負になったと考えられます。
このことからも、バテて下げたわけではないことが分かります。
では、補正をいくらにするのか?
4角で下げた位置取りはおおよそ1馬身半、3ポイントが妥当です。ゴール前で脚を余しているようであればもう少し補正を大きくしますが、今回は下げた分だけの補正としました。
このレースの走破タイムから単純に算出した生値と補正を加えたAP指数は次のようになります。
着順 | 馬名 | 生値 | AP指数 |
---|---|---|---|
1 | シンシアズブレス | 42 | 45 |
2 | テーオーピタコン | 41 | 44 |
3 | クリノサンスーシ | 41 | 46 |
4 | ブラボーリック | 41 | 46 |
5 | リップルトウショウ | 40 | 47 |
補正を加えたAP指数では、5着のリップルトウショウが上位4頭をおさえ、一番高い値となりました。レースで先着されていたとしても、最も能力が高い馬を見極めることができます。
実際にリップルトウショウは次走AP指数1位で1着となり、補正の有効性が証明される結果となりました。
記録に表れない不利を補正することは、人の気づきにくい馬券的な妙味を探し出すことになります。
非常に有効ですが、難点を上げるとすれば、非常に時間がかかることです。ぜひ、AP競馬新聞でAP指数のいりょくを体感してみてください!
『AP指数』とは?シリーズ一覧
お読みいただき、ありがとうございました。
クリックして応援いただけると励みになります!